
◆赤いリボン◆
「なぁ、和葉っていつもポニーやん、なんで?」
お昼休み中、一緒にお弁当をつついていたクラスメートの一人、ユウコが不意に和葉に訊いてきた。
そしてすかさず、隣のキョウコも同じように、
「そうや、どうしていつもポニーやの?和葉やったら下ろしたってええと思うけど?」
と言い。そして、小学校以来の親友、トモコもまた、
「ホンマにな。小学校の時からずっとやろ、それ?あんたぐらいやで、小学校から変わらん髪形しとるの」
と言われ、そして、
「もしかして、まァた、服部がらみ?」
と何かを含んだもの言いで和葉に視線を移す。
「え、ホンマ?」
「なになに、なんやの?」
それを聞いた瞬間の、ユウコやキョウコも、興味深々、どころかもうその眼は期待に満ち満ちていて・・・。
和葉は咄嗟に、首を振った。
「ち、ちゃうわ。そないなこと・・・」
思わず声が裏返って。
「はいはい、やっぱ、そーなんや」
和葉の態度ですっかりわかってしまったのだろう。三人はそれぞれ頷き。
「で、今度はどないな理由やの?あの服部君が『お前にはポニーが似合う』とか、言うたとか」
言いながら笑うユウコに、
「あの男がそないなこと言うわけないわ。どうせ、和葉が勝手に『思い出』とか思ってるんちゃうの」
とキョウコが答え。
そんな二人に、和葉が握り拳を作る中。
「で、ホンマにどうなの?あの服部が女の子にプレゼント、でもないし?」
唯一、小学校から和葉や平次を知っているトモコがじっと和葉を見つめ、問いただす。
「あんなァ、平次やって、その・・・プレゼントぐらい・・・」
と和葉が答えた瞬間、
「「「へッ!!」」」
三人が三人とも、表情を固めた。
「な、なんやの?!」
「ちょっと、意外、っていうか・・・」とユウコが言い。
「ホンマ、あの服部君が・・・」と本当に驚いたように、キョウコが言って。
最後に、トモコが叫んだ。
「マジ?マジなん?あの、あの服部が?!」
本当に意外、だったらしく。トモコの声は教室中に響き渡るほど大きな声で。
刹那、教室中の視線が和葉たちに注がれて・・・救いだったのは、そこに平次の姿がなかったことぐらいで。
和葉は慌ててトモコ共々教室を後にし、場所は教室から視聴覚室へと移った。
「トモコのアホッ!なんて声だすんッ!」
「ごめんごめん、ホンマ驚いて・・・だって、服部って、ぜんぜん女心っていうか、ぜんぜん子供やん。未だ女やんて眼中になし、って奴やろ?」
「そ、そんな・・・」
「だいたい和葉が部屋に入っても、H本の一つもないやなんて、ホンマ、男としてどない?って感じやし」
言いたい放題言うトモコに、和葉は、
「H本って、別に隠してあるかもしれへんし・・・だいたい水着当てとか、胸の大きさとか、コナン君と言うておったし・・・」
その時の事を思い出した和葉の顔が、僅かに歪む。が、トモコは全く、と肩を竦め。
「せやから、子供、やないの。だってコナン君って小学生なんやろ。そないなガキと話が合う、ってこと自体、ホンマ、子供や子供」
「子供、子供って、平次だってカッコええとこあるし・・・それに、推理する姿は・・・」
和葉の顔にポッと赤味が差す。
そんな和葉の様子に、トモコは小さく溜息を吐き。
「ホンマ、服部が好きなんやね〜、なんや羨ましいわ」
「へ?」
「一生想える人に、和葉もう出会うておるんやから」
「一生、想える・・?」
「うん。だから、ずっとポニーテールなんやろ?」
「えっ・・」
「赤いリボン・・・なんや思い出したわ」
「トモコ・・?」
「確か、小学一年の時やったよね?クラスでクリスマス会やった時やろ?音楽に合せてプレゼントを回して、音楽が止まると同時にプレゼントをとめて。あの時、服部の買てきたプレゼントが、リボン、そう赤いリボンやったよね?そして和葉の手の中に収まった?ちゃう?」
「・・・」
和葉は赤くなりながら、コクンと頷いた。
それは平次から直接プレゼントされたものではなかったが、確かに平次がプレゼントとして買ったもので。それがたまたま和葉の手の中に来ただけだったが、それでも、大切な、平次からのプレゼント、に他ならなかった。
あの時平次は、
『なんや、おまえんとこに行ったんか。よかったわ。男がもろうてもうれしーないからな』
と言っていたが。
手の中のプレゼントが平次からのだと知った瞬間の和葉の気持ちは、計り知れないものだった。
和葉はあの時のことを思い出して、微笑んだ。
その後あのプレゼントが、何を勘違いしたのか平次の母、静華が和葉へのプレゼントだと思ってそれを選んだ事を聞き、
『よかったわ。もろうたのが和葉ちゃんで。平次にはさんざん、もし男に当たったらどないするんや!って言われていたんよ。でも、和葉ちゃんやなんて、ホンマは平次、和葉ちゃんに当たればええ、って思とったんかもな』
と言われ。
もうそれだけで、和葉には十分だった。
たとえ平次から直接でなくても、間違いなく平次からのプレゼント、ではあったから。
和葉はそっと自分のポニーテールに手を伸ばした。
「もっとも、平次のアホは、全然覚えてへんだろうけど・・・」
「それは、どないやろうなァ」
和葉の呟きに、トモコが答える。
「へ?」
和葉は僅かに首を傾げ、トモコを見返す。
「案外、気づいておるかも、って話」
「ま、まさか〜、あの平次が?」
「まあ、確信はないんやけど」
「そんないなことあるわけ・・・」
「でも、逆に言えば、あの服部が気づかんはずもない、と思うけど。なんせ、西の服部平次やから」
トモコにそう言われて、和葉は少し考える。
しかし、平次にそれらしいことを言われたことも、まして、態度すらも覚えがなかった。
(まあ、平次にそこらへん期待しても無理・・・やろな)
和葉が小さく溜息を吐くと同時に、トモコが和葉の耳元に囁く。
『試してみたら?』と。
そして、和葉はその後の五限目と六限目を髪を下ろしたまま過ごしてみることにした。
クラス中が僅かに驚きの眼を向ける中、やはり平次からは何の音沙汰もなく。
放課後、諦めかけ、ポニーテールを結ぼうとした時。
「なんや、無くしたんやなかったんか?」
「へ、平次?!」
突然の声に、和葉は慌てて振り向いた。
「トロイお前のことやから。てっきり無くしたァ思うたわ」
「な、なに?!」
「でも、あるんなら、なんで髪、おろしたんや?」
「な、なんで、って・・・」
平次が覚えているかどうか確かめたくて・・・とはさすがに言えず和葉は言葉に詰まった。
そんな和葉に、平次はクスッと小さく笑って。
「まあ、あるならええわ。人がやったもん、無くされたらたまったもんやないからな」
言いながら、平次はポンポンと和葉の頭を小突いた。そして、また教室を出て行く。
「ちょ、平次ッ!」
和葉の呼びかけには答えず、平次はそのまま廊下を歩いていく。
しかし、残された和葉は、十分過ぎるぐらいの答をもらって、手にした赤いリボンを胸に抱いた。
「なんや・・・覚え、とったんか・・・」
小さな呟きとともに、笑みが零れる。
「平次の・・アホ・・・」
言って、ポニーテールに、赤いリボンをつけた。
平次からプレゼントされた、それを。
◇おわり◇